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2014年7月31日 (木)

「祈りよ力に」「英国」神なき人生をより良く 教会に代わり絆づくり 広がる無神論者集会

日曜集会の創設者で司会者、サンダーソン・ジョーンズ。歌の指揮からコメディーまでこなし、参加者を楽しませる。母の死をきっかけに無神論者となったが、逆に生きる喜びの大切さに気づいた=ロンドン(撮影・中野智明、共同)
 長く欧米文化の支柱となってきた「神の存在」に対する挑戦は、サキソフォンの音色とともに思いの外和やかな雰囲気で始まった。
 「ウォーキング・オン・サンシャイン」。恋人の手紙を待ち焦がれる思いを明るく歌った1980年代の大ヒット曲を壇上のバンド演奏に合わせて約300人が一斉に歌い、踊った。
 月2回ほど開かれる「日曜集会」(SUNDAY ASSEMBLY)は、コメディアンで33歳のサンダーソン・ジョーンズが昨年1月、コメディアン仲間と立ち上げた。「より良く生きる、助け合う、世界の不思議を感じる」がテーマだ。
 ▽あまりの人気
 ジョーンズはクリスチャンの家庭に育ったが、10歳ごろから宗教に疑問を抱き、その後、母の死をきっかけに無神論者になった。それでも、3年前のある日、仲間と宗教や教会の話をしていて「失ったものも少なくないことに気付いた」。
 教会での歌や演奏、信者によるボランティア活動、地域の絆―。教会が与えてくれていた、すてきなものを取り戻すすべはないのか。たどり着いた結論が「神のいない教会活動」だった。奇抜な発想が地元メディアの注目を集め「活動立ち上げは大成功だった」とジョーンズは振り返る。
 最初はロンドン北部の小さなキリスト教会に集まっていたが、あまりの人気で参加者を収容できなくなり、ロンドン中心部の公会堂に場所を移した。「神抜きで人生のすばらしさを味わいたい人がこんなにいたのか」。ジョーンズ自身が驚いた。

日曜集会の会場では歌や踊り、コメディーに笑顔がたえない。参加者の多くは神と教会への信頼を失いつつあるが、人間同士の絆と幸福へのきっかけを求めて集まってくる=ロンドン(撮影・中野智明、共同)
 ▽失われた絆
 神を拒絶しつつ「教会」に集うという矛盾した活動に多くの人々が飛びついた背景には、既存の教会に対する信頼の低下があるようだ。
 神を信じる英国人の割合は低下している。2011年の若者を対象にした世論調査で神を信じると答えたのは約25%。自分に影響を与える人物として宗教的指導者を挙げたのは12%で。有名人(21%)をも大きく下回った。特に近年、聖職者による未成年信者への性的虐待の実態が次々と暴露され、神や教会という存在は人々の心に居場所を失いつつある。
 拍車を掛けているのが伝統的生活の変化だ。英国は第2次大戦後、英国病と呼ばれた経済停滞を1980年代にサッチャー政権が手がけた社会改革で克服、経済活力を取り戻したものの、格差が急速に拡大。大量の移民受け入れや外国資本による不動産買いあさりなどもあって、伝統的な地域コミュニティーの絆は年々失われている。
 「絆作り」を重視するジョーンズは集会に交流タイムを設けた。「会ったことがない人を少なくとも5人見つけて話をしてください」との呼び掛けに出席者らは一斉に自己紹介を始めた。
 「昔は教会が人と人を結び付けていた。本当は神への祈りより、週に1回、ご近所と世間話をするのが楽しみで通っていたもんだ。今じゃ教会で出会う相手といったら牧師さんと神様だけだよ」初老の男性がジョークを交えて語る。「私はまだ神を信じているが、無神論者との壁は感じないな。それより、こうして日曜日の朝に誰かと話ができることがありがたい」。男性は笑顔で若者らとの世間話に興じていた。
 ▽文化講座
 集会はキリスト教徒、イスラム教徒、仏教徒の参加も歓迎。無神論を掲げるが、各宗教を否定せず、約2分間の黙とうが祈りの代わりだ。禅のように無の境地を目指そうが、自分の過去1週間を反省しようが自由。ジョーンズはただ「内省」を参加者に促す。
 牧師や神父の説教に代わるのが文化講座で、科学や文化、歴史など幅広い分野の専門家を招き、出席者が世界の真理について考え、議論する機会を提供する。
 この日の集会では女性心理学者が「うつ病に負けない生活」をテーマに講演した。「皆さんは孤立しがちな大都市ロンドンに生活しています。知ってますか。社会的孤立は喫煙と同じぐらい心身に悪影響を与えるんですよ」。熱心に聴いていた聴衆の一部が深くうなずいた。
 ▽分かち合い
 交流タイムのゲームを楽しんでいた45歳の男性高校教師カルロスは18歳年下のジェイソンと「デートを兼ね」、同性カップルとして参加していた。カルロスは「スキャンダル続きの旧来の宗教には失望した。ここは触れ合いに対する人々の要求を満たしてくれる」と笑顔で話す。
 一部のキリスト教系教会は、同性カップルや同性婚を容認する姿勢を示しているが、保守的な信者の理解は十分ではなく、同性カップルは本当の意味では受け入れられていないと肌で感じている。価値観が多様化し拡散する現代の都市生活だからこそ「より良く生きよう」というシンプルな呼び掛けが力を得た。
 ジョーンズは「人間は無から生まれ、無へ帰っていく」と信じるが、そこに虚無感はない。「生の喜びを少しでも多くの人と分かち合いたい」が母の死から学んだ教訓だ。無神論集会は今、米国に広がっており、いずれ日本進出ももくろんでいる。(敬称略、共同通信ロンドン支局 半沢隆実)

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