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2014年7月21日 (月)

コラム:中東発「円高・株安」シナリオの現実味=斉藤洋二氏


斉藤洋二 ネクスト経済研究所代表
[東京 17日] - イラクではシーア派を偏重するマリキ政権への反発が高まり、6月に入り北部を制圧したスンニ派の過激派組織が攻勢を強め、さらに「イスラム国家」の樹立を宣言した。最悪の場合、首都バグダッドの政府機能停止や南部に位置する主力油田地域での生産・輸出活動に被害が及ぶ懸念も高まる。
イラクは石油輸出国機構(OPEC)で第2位そして世界で第7位の産油国であり、原油生産量は2013年には日量314万バレルと世界全体の3.7%に達しており(今年2月にはフセイン元大統領が権力を掌握した1979年以来35年ぶりに日量360万バレルを回復)、その供給懸念は原油価格に上昇圧力を加えている。
また、イラク情勢の混迷は、国内における宗派対立の激化に加えクルド人が自治権拡大を目指すなど国家分裂の可能性を有し、さらにイランとサウジアラビア・イスラエル間の緊張を高めるなど中東の均衡を揺るがす。
このように、中東における地政学リスクはウクライナ危機同様、米国の外交政策はじめ国際政治に影響を与えるとともに、複数の波及経路から国際金融市場を不安定化させる可能性を秘めている。
<迷走する米国の中東外交>
中東情勢は宗教・政治両面において歴史と今日的問題が絡み合い、様々な対立の構図を生み出している。宗教的観点からすれば、約16億人ともいわれるイスラム教徒のうち大半がスンニ派に属し、シーア派はイランやイラクなどを中心に約2億人にとどまると推定される。その宗派対立の歴史は、イスラム教の預言者ムハンマドの後継者の正統性をめぐる争いに起源が求められ、1300年以上もの長きにわたり、根が深い。
一方、政治的にみれば、第一次世界大戦中の1916年に英国の中東問題専門家マーク・サイクスと仏外交官フランソワ・ジョルジュ・ピコが、オスマン帝国分割後の中東諸国の国境線を引いた。このサイクス・ピコ協定に続くバルフォア宣言などによる取り決めに対し、中東では西欧への反発そして各民族間における争いが生じ、現在もアルカイダなど国際武装組織の力ずくでの行動など様々な紛争が続いている。
こうした状況下、2001年には米国への同時多発攻撃が発生し、その後、イラクでは03年の米軍侵攻でスンニ派フセイン政権が倒れ、さらに11年にはアルカイダの指導者で、同時多発攻撃の首謀者とされたウサマ・ビンラディン容疑者がパキスタン領内での米軍作戦により殺害された。11年末にはイラク駐留米軍が完全に撤退して、中東に平和が訪れたかにみえた。
だが、それもつかの間、シーア派のマリキ政権は、イラク戦争以後の国家再建にあたり「挙国一致の政府誕生を」との米国の期待を裏切り、シーア派とスンニ派の対立は議会内にとどまらず全土に広がる内戦状態に至っている。
ブッシュ政権時代には積極的に中東に介入した米国だが、現在「オバマ・ドクトリン」と称される外交政策はシェール革命の進ちょく、財政ひっ迫、中国への対応などにより軸足を太平洋へとシフトしており、イラクにおいて空爆も含め軍事力の使用には極めて慎重である。
ただ、ケリー国務長官が、イスラム国家の樹立を宣言した前出・スンニ派過激派組織への対抗上、国交のないイランとの共闘を示唆するなど、オバマ政権の外交スタンスは定まっているとは言い難い。今後も軍事関与を含め米国政府の対応は、ただでさえ微妙な均衡の上に立っている中東情勢を不安定化し、市場の波乱材料となるかもしれない。
<「第三次石油危機」の記憶>
ここで原油の需給動向を簡単に押さえておきたい。まず、供給面から言えば、OPECの市場支配力が70年代をピークに減少しているのは事実だが、いまだ世界の原油供給の約4割を担っている事実を忘れてはならない。
特にサウジアラビアの生産能力の高さは際立っており、「アラブの春」によるリビア減産への対応同様、イラクの供給不安発生時にも同国の増産に頼る図式は変わらないだろう。
むろん、将来的にはシェールオイル・ガスなど非在来型エネルギーへの代替が予想されていること、また原油価格の上昇に連れオイルサンドなど産出コストの高いエネルギーの供給余地が拡大することから、原油価格の高値水準は長く続かないとの見方もある。筆者も、そうした事情から、地政学リスクがエネルギー価格に与える影響には一定の歯止めがかかるのではと考えている。
ただ、それはあくまで長期の話であり、目先の話ではない。足元で中東情勢が緊迫化した際には通用しないロジックだろう。一部には、イラク情勢の緊迫度合によっては、6月に115ドル台の高値をつけた後、軟化傾向にある原油価格(北海ブレント)が再び上昇に転じ、150ドルを目指すとの予想も示されているが、十分あり得るシナリオだ。
一方、原油の需要サイドでは、90年代以降の経済成長に伴い中国が消費量を急増させ米国に次ぎ世界第2位となっている。将来も右肩上がりの需要増大が予想されており、現在アフリカなどへ輸入先の多様化を図っているものの、5割を超える中東原油への依存度(輸入原油に占める割合)を低下させるのは難しい。
したがって、中東発の原油市場の混乱が中国経済を通じて国際金融市場に与える影響は以前にも増して大きくなっており、この点、新たな不確定要因として留意する必要があろう。
翻って、エネルギーの大半を輸入に頼る日本は、70年代の第一次・第二次石油危機で「狂乱物価」や経済危機に遭遇したように、原油の量的確保は国のエネルギー政策の根幹をなす。04年から08年にかけて世界的な好景気と金融緩和を背景とした投機的な動きを受けて原油価格が140ドルを超えた際に、日本経済は「第三次石油危機」とも呼ばれる原油価格上昇に直撃され、企業活動が一時低下したことは記憶に新しい。
今後、イラク情勢が悪化した場合は、ガソリン価格が物流コストに転化され、さらに原油価格に連動する液化天然ガス(LNG)の値上がりが電気料金に跳ね返ることが想像される。
現在、コアCPI(生鮮食品を除く消費者物価)前年同月比は消費増税の影響を除くと1%台前半で推移しているが、原油価格の上昇がインフレを加速させることになれば、日銀が意図しない出口戦略の議論に急き立てられる可能性も出てくる。
「第三次石油危機」時の円相場は、世界経済の拡大などを背景とするリスクオンに支えられて、07年まで円安を辿った。だが、今回は、中東の地政学リスクが顕現化すれば、リスクオフの中で円高そして株安へと転じる可能性が高いだろう。
<市場は嵐の前の静けさ>
現在の国際金融市場は各国中銀による量的金融緩和策により米国株価が史上最高値を更新し、また同時に米国債に限らず南欧債も2年前の暴落時とはうってかわって高値で推移するなど、クレジットバブルの様相を呈している。
一方で、恐怖指数などボラティリティ(予想変動率)は低水準にあり、嵐の前の静けさを感じさせる。特に投機筋にとっては、市場の波乱要因を探すのが当面のテーマとなっていよう。
こうした中、株高と債券高という「二律背反」現象が進む矛盾を解消し、クレジットバブルを破裂させる最大の要因として、各国に先駆けて出口戦略を進めている米金融政策の舵取りがあげられる。しかし、突発的かつ暴力的に市場を襲う点でより大きなインパクトを持つ材料と言えば、国際金融市場を震撼させリスクオフ志向を強めさせることになるイラク発の地政学リスクではないだろうか。中東情勢の帰趨にはくれぐれも要注意だ。
*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)

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