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2014年7月 9日 (水)

コラム:恐怖指数の低下が示す「米国バブル」の予兆=鈴木敏之氏


[東京 8日] - 恐怖指数と呼ばれるVIX指数の低位推移に対して、市場の関心が高まっている。同指数はボラティリティをみる代表的指標だが、米国の第1四半期国内総生産(GDP)が大幅に下方修正されても、6月の雇用増加数が事前予想を大きく超えても、高まる気配はない。
このことに安心してはいられない。VIX指数が10%台前半に長くとどまった後には、金融不均衡、バブルの問題が起きているからである。
米経済の体温を測るには、シカゴ地区連銀が毎月発表する全米経済活動指数(CFNAI、85種類の全米の月次経済指標を加重平均して算出する指数)を参照するのが良いが、足元の状況が過熱もせず、冷え過ぎでもない「適温状態」にあるのは一応事実だ。過去においても、VIX指数が10%台であれば、CFNAIは、当初は概ね適温状態にあった。
経済は巡航速度で成長し、インフレを警戒して引き締めがなされる脅威も、景気後退の脅威もなく、市場参加者が先行きに自信を持てる状況だ。恐怖を感じずにリスク資産を保有することができ、株価も上昇する。実際、最近の米国市場では株価指数の最高値更新が続いている。
ただ、CFNAIとVIX指数の関係は、時間が経過すると変わってくる。VIX指数が低いままだと、2年後にはCFNAIが悪化するとともに、2年債の利回りが上昇する関係を見出すことができるのだ。景気の過熱や、過剰なリスクテークを受けて、金融政策が引き締め方向に動くこともあるし、リーマン危機のときのように金融市場が自壊してしまうこともあった。経済活動の悪化は、ある程度の時間が経過してから起きているのである。では、今回はどうなのだろうか。
<米金融政策をめぐる4つの不安要素>
この判断に際して、不安な気持ちにさせるのが、米金融政策の不透明性である。
振り返れば昨年夏ごろには、市場参加者のほとんどが、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)までに量的緩和(QE)が縮小されると見込んでいたが、その実施は先送りされ、12月になってようやくQE縮小開始が決まった。
また、6.5%という失業率の閾値が設定されて、そこに到達すれば、金融政策の変更が検討されるはずだったが、金融政策の変更ではなく、閾値設定の放棄が現実であった。この通り、金融政策の見通しはかなり間近のことでも利かないのに、市場関係者の多くは今、平気で来年の利上げ開始を見込んでいる。
不透明かつ不安な要素はあまりに多い。第1に、金融緩和効果を発揮しているのが、「フローのQE」なのか、バランスシートの規模がものを言う「ストックのQE」なのかの判断が明瞭にされていないことがある。
強い雇用統計が出ても、債券がそれほど売られないのはなぜかという疑問が言われるが、「ストックのQE」が効いているのであれば、不思議ではない。年内に終了するのは「フローのQE」である。4兆ドルを超える米連邦準備制度のバランスシート規模が緩和効果をもたらしているのであれば、QEは終わっていない。それがある間は、株式市場が大きく崩れる心配はないとして、VIX指数が低位に推移し、ほどなくして雇用の増加、失業率の低下に拍車がかかるかもしれない。そうなれば、米金融政策当局者は慌てだすことになろう。
金融政策面の対応がビハインド・ザ・カーブ(手遅れ)になれば、金利の上昇が起き、リスク資産の市場は崩れだしてしまう。VIX指数が低いままだと、2年後にCFNAIが悪化するという動きが再現する可能性が高まる。
第2は、米国経済の供給余力である。今、市場参加者の多くは、金融政策の正常化は進められるが、引き締めではないという判断を持っているだろう。ここにも不安がある。米国の労働生産性は趨(すう)勢でみると、伸び率の低下が続いている。背景には、危機後の設備投資の抑制が影響している可能性がある。
雇用者1人当たりの設備投資の伸び率は低下している。CFNAIでみて適温状態にいるにしても、その適温状態での経済成長率が下がっているのだ。供給の天井が下がってきている可能性を、とても否定できる状況にはない。もし仮にその問題がすでに起きているとすれば、まさしく「ビハインド・ザ・カーブ」であり、来年の利上げなどという悠長なことは言っていられなくなる。
この問題については、失業期間が27週未満の短期失業率がすでに危機前のところまで下がっていることから、賃金の上昇がもたらされるとの指摘もある。仮にそうだとすれば、金融緩和で完全雇用を求めるというイエレン議長の戦略の根幹にかかわるものである。つまり、短期失業率の低下とともに、賃金上昇の動きが加速してくれば、金融政策の進め方が大きく見直されるということである。
第3に、決定的な追加緩和の手段がないことも、金融不均衡の問題を悩ましくさせる。バブルは膨張しているときにバブルかどうかわからないし、いたずらに過剰反応しては将来のためのイノベーションの芽を断つかもしれない。破裂してから金融緩和で徹底的に対処するにしても、今はもうその緩和手段が枯渇している。金利は今後、いくばくかの利上げをしたとしてもかなり低いので、利下げという手段の効果は限られる。QEも副作用、弊害が懸念されて撤収方向であり、それを再開、拡大するのは簡単ではないだろう。
第4に、実務面の問題がある。4兆ドルのバランスシートを抱えながら、いかに金融政策を動かせるかは、未知との遭遇である。昇降舵を動かしたときの、飛行機の運動がわかっていないのである。よほど大きく舵を動かさないと飛行機の上昇は止まらないかもしれない。急に揺れだすかもしれない。試行錯誤になることも覚悟しておかなければならないということである。
恐怖指数といわれるVIX指数が高いことは、市場参加者の強い恐怖感を示す。しかし、それが低いことは、この通り、安心を意味しない。足元の状況には、むしろ恐怖を感じるほうが健全ではないだろうか。
*鈴木敏之氏は、三菱東京UFJ銀行市場企画部グローバルマーケットリサーチのシニアマーケットエコノミスト。1979年、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。バブル崩壊前夜より市場・経済分析に従事。英米駐在通算13年を経て、2012年より現職。

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