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2014年8月 7日 (木)

祈りよ力に」(17) 「コンゴ(旧ザイール) 「戦略」に使われるレイプ 命がけで治療続ける医師 戦乱の地に響く賛美歌


支援団体の施設で、支援者の話に耳を傾けるレイプ被害者の女性たち。薄暗い部屋の中で寄り添うように静かに時を過ごす=コンゴ東部ブカブ郊外(撮影・中野智明、共同)
 湖近くの山里にひっそりと立つ病院の一日は、キリスト教の朝の礼拝で始まる。「アマニ(平和)、アマニ」。太鼓をたたきながらスワヒリ語の賛美歌を歌う色鮮やかな民族衣装姿の女性たち。力強い歌声が、れんが造りの平屋に囲まれた小さな中庭に響いた。
 患者はほぼ全員が女性で、多くがレイプ被害者だ。1990年代から戦乱が続き、今も多くの武装勢力が割拠するアフリカ・コンゴ(旧ザイール)東部。民兵らの性暴力がまん延し、主要都市ブカブのこのパンジ病院に治療を求めて駆け込む被害者は後を絶たない。
 中庭の廊下で目を閉じ、合掌して祈る白衣を着た長身の男性の姿があった。59歳のドニ・ムクウェゲ。99年に同病院を立ち上げた産婦人科医だ。
 赤ん坊から老人に及ぶレイプ被害、虐殺―。数万人の被害者に手術などの治療を施し、ノーベル平和賞有力候補とも言われるムクウェゲには悩み続けた疑問があった。
 「なぜ彼らは、こんな動物以下の残虐なことをするのか」
 ▽世界最悪の場所
 父親が牧師で、熱心なプロテスタント信者のムクウェゲ。今、その答えを「レイプが『戦争の武器』として組織的に使われているからだ」と考えている。
 どういうことか。神も見放したかのような「女性と子どもにとって世界最悪の場所」(国連関係者)で、被害者と加害者から想像を絶する体験談を聞いた。
 「監獄だった」。46歳の女性ムナメガベは約9年前、ブカブ郊外の村で銃を持った3人組にレイプされ、森の奥へと連行された。その後約5年間、隣国ルワンダから流入したフツ人集団とみられる武装組織の拠点で拘束。若いメンバーに何度も性行為を強要され、男児2人を産んだ。
 「抵抗して射殺された女性を6人は見た」。恐怖が支配する中「私を逃がして」とカトリック信者のムナメガベは神に祈った。願いが届いたのか、2人目を産んだ直後、監視の隙を見て子どもを連れて逃走し、何とか故郷に帰り着いた。
 しかし「フツの妻になった女はいらない」と夫に家を追われた。親族や援助団体の支援で父のいない子どもを育てるが、生活は苦しい。「あの5年は忘れるつもり」。ムナメガベは唇をかむ。
 ムクウェゲは、ムナメガベのような事例を何人も見てきた。「レイプは家族や地域社会を壊す戦略で(敵対勢力間で)使われ、実際に作用している」。その影響は「核や化学兵器のように」何世代も後まで残るだろうと嘆いた。

パンジ病院でレイプ被害の女性入院患者に笑顔で話し掛ける産婦人科医のドニ・ムクウェゲ。患者の表情も明るくなった=コンゴ東部ブカブ(撮影・中野智明、共同)
 ▽元子ども兵
 23歳の青年ムルラ(仮名)は13歳で子ども兵となり、レイプを繰り返したと告白した。2004年にブカブを襲った反政府勢力が、自分の目の前で母と当時10歳の妹をレイプしたことがきっかけと彼は強調した。
 母はその場で女性器に発砲され死亡、妹も病気になり、間もなく死んだ。怒りが沸点に達し「復讐のため」同じことをするとムルラは決めた。コンゴ人民兵組織に入り、定かでないが200人以上をレイプしたという。
 村々を襲撃した際に組織指導者の命令に従いレイプしたケースが多かったが、自分の欲望からもたびたび女性を襲った。
 12年末に組織を脱退したムルラは現在、後悔の日々を送る。「時間を無駄にした」。逮捕が不安だ。ブカブで物売りを始めたが体調が悪い。エイズ感染の不安もよぎる。
 「レイプが女性に与える深刻な影響を男は理解していない」。ムクウェゲが力説した。市民や警官までもレイプをするようになったと嘆き「教育が必要だ」と訴える。
 ムクウェゲはまた、紛争が続く根本の原因はコンゴ東部の豊かな鉱物資源をめぐる経済的利害にあると指摘した。実際、ムルラは「自分のいた組織は銅鉱山などを(不法)管理し、ルワンダ人業者が買い付けに来た」と証言。これを資金源としてか、組織の武器補給は十分だったとも語った。
 ▽暗殺未遂
 公然と東部の非人道的状況を批判してきたムクウェゲは命を狙われたことがある。一昨年10月、ブカブで帰宅した際に待ち伏せした5人組に狙撃された。自分は助かったが警備員が死んだ。
 国連で演説し、東部の問題に無関心だと国際社会を批判した直後だった。演説は本来、その前年の予定だったが、コンゴ政府高官に脅され、いったん取りやめていた。
 5人組の正体は不明だ。事件後、ムクウェゲは家族を連れて欧州に逃れ、国にはもう帰らないつもりだった。だが帰国を求める地元女性の声が殺到。「生活費が1日1ドルもない女性たちが野菜を売り、帰国用航空券を買うと申し出た。断れなかった」。昨年1月にブカブに戻ると、大勢の女性が歓喜の涙で迎えた。
 以来、ムクウェゲは警備が整った病院内で暮らす。自由はなくなったが、神と、そして女性たちと自分がさらに「共にいる」と感じるようになった。「自分の命も誰かに守られている」。前を向き、今日も治療を続ける。(敬称略、共同通信前ナイロビ支局長 吉田昌樹)=2014年04月30日
被害者は20万人以上か
 コンゴ(旧ザイール)東部はレアメタル(希少金属)が豊富で、1998年に発生した内戦は鉱物利権も絡み、ルワンダなど5カ国が介入する国際紛争に発展、2003年までに数百万人が死亡した。その後も治安は回復せず、12年からは政府軍と反政府勢力「3月23日運動」の衝突が続いた。
 国連の推定では98年以降、コンゴでレイプされた女性は20万人以上。06年だけで40万人以上が被害に遭ったとの米研究班の調査もある。医師ムクウェゲによると、一昨年からの戦闘激化で被害者数は再び増えた。
 しかし法的処罰が下るケースはほぼない。東部の大半の地域は事実上の無法地帯と化している。

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